デジタルツールと語学学習

この10~15年のデジタルツールの進歩は著しく、なんとなくですが「技術が進歩するとともに私たちの生活が便利になり、メリットしかない」というイメージをお持ちの方も多いと推察いたします。
私を含めた外国語学習者は、どのようにデジタルツールと付き合っていけばよいのでしょうか? この夏に生徒さんを指導していて立ち止まって考える機会があり、筆者なりに考察をしてみました。

上手に付き合っていけばいいんじゃない、って最初は思っていました

iPod 登場以降、音楽や音声コンテンツを気軽に持ち歩くのが簡単になり、スマートフォンの登場により音声だけでなく映像も簡単に手元で再生できるようになりました。筆者も公共放送ニュースやポッドキャストを外出時に持ち歩いたりします。
重くて価格も高いパソコンを持ち歩いていた時代とスマホの便利さを比較すると隔世の感があります。実際、筆者の生徒さんは半分以上がスマートフォンでレッスンを受講されているのではないでしょうか。1台あればオンラインミーティングも Web 上での調べものも、メールや SNS のチェックまでも完結してしまう、まさに万能の機械です。

私のブログではまだ紹介していませんが、各種の語学学習アプリなども基本的にはスマートフォン用に作られています。学習者に合うものを適切に選択して効果的に学習が進むのであれば、これ以上のことはありません。ジャンジャン使っていきましょう!

外国人として海外で生活しようと思ったら、頼り過ぎると問題がある場面があるかも

ところがです、外国人としてドイツ語圏で生活しようと思ったら、やはり日常の会話などはドイツ語で進んでいくわけです。そしてその国に骨をうずめようと決意したら永住権を取得したり二重国籍を取得したり、そこまではいかなくても長く滞在できるように「どのようにしたら語学の資格を取得できるのか」と考え始めますよね。
残念なことに Goethe Zertifikat や telc といったドイツ語圏の語学の資格試験は驚くほどアナログに実施されます。コロナ禍中は一時的にオンライン形式で試験が運用されたりしていましたが、平時に戻ったあとは試験も元のスタイルに回帰してしまったようです。
ここでいう「アナログな実施」とは、「受験者は試験会場に赴いて、紙に印刷された問題用紙を配布され、紙に印刷された解答用紙にボールペンなどで答えを記入。インタビュー ( Sprechen ) では試験官2人と実際に向き合っておしゃべりをする」という旧来のスタイルです。

試験には辞書はもちろんデジタル系ツールは一切持ち込めませんので、身一つで臨まなければなりません。普段スマホでメールを書くときは自動修正機能で誤字や単語の誤用の箇所をお知らせしてくれたりします。スーパーで買い物をするときも端末をかざせば翻訳した単語が出てきてくれたりと、この種のツールに慣れた人間にとって超アナログな試験を受けるのは一仕事だな、と感じました。

実際にこの夏に試験を受けた生徒さんが「正しいスペルを(解答用紙に)書ける自信がない単語がけっこうある」とおっしゃっていたのを耳にしました。これから勉強に本腰を入れて取り組みたい初学者~B1くらいの学習者は便利なツールに頼り過ぎるのはデメリットのほうが大きいのかな、と痛感した出来事でした。

結論

学習ツールの1つとして、またはコミュニケーションツールとしてスマホをガシガシと活用するのは、個人的にはとてもいいことだと思います。
しかしながら、お客様の前でスマートフォンを取り出して翻訳機として使用したり、わからない単語を相手に断らずに突然調べ出したりする行為は、他意はなくとも「失礼な奴だな」「なんだこいつ、機械をいきなり出してきて」とあらぬ誤解を招く場合もあります。以前他の記事で書いたこともありますが、日本人がよく語学学校の授業に持参する某電卓メーカーの電子辞書を使うことすら快く思わない先生もいたりします。
繰り返しになりますが、試験を受けることを真剣に検討している方は「きちんと書けないと・きちんと話せないと」という現実的な問題に遅かれ早かれ直面するので、ある程度アナログな環境に慣れておく必要があります。

ご自身の学習レベルや日常生活でドイツ語を使用する状況を見極めつつ、上手にデジタルツールと付き合っていただきたいです。

仮に自分がドイツ語の母国語話者だったとして、旅行者に翻訳機などを差し出されて会話をするという状況は許容できるのかなと思います。
ここから先は余談になりますが、ヨーロッパの人(ドイツ語圏の人を含めて)は概してリアルな会話を日本人よりも好む傾向にある、と筆者は考えます。「話せない」「会話をどう進めていいのかわからない」と悩んでいる人は、練習相手をちゃちゃっと見つけて本物の人間とのやりとりを優先されるほうが語学習得の近道になるかもしれませんね。